1. 映画プロデューサー 高倉三郎様

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映画プロデューサー 高倉三郎様

2012.06.28

映画プロデューサー 高倉三郎様

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日本映画史に残る名作を手がけて来られた、というより、”日本映画史そのものを作って来られたお一人”とご紹介すべき映画プロデューサー、高倉三郎さん。
盟友、藤子不二雄A氏たっての希望を受けて企画を通し、篠田正浩監督の下、山田太一氏の脚本により映画化された名作『少年時代』は、井上陽水の主題歌と共に大ヒットとなりました。
古くは50年前の菩提樹二子玉川店から、かつ吉へは平成元年の渋谷店開店時から、今も変わらずお越しくださる高倉さん。
渋谷店店長の足川が、「僕よりもよっぽど、かつ吉の先輩です(笑)」と紹介する高倉さんに、数十年かつ吉にお越しくださるその理由について、かつ吉渋谷店でお話をうかがいました。(インタビュー・文 K’s WEB Consulting )

最初は今から50年前

― はじめてかつ吉に来店なさったのはいつですか?

高倉さん:僕がはじめてかつ吉に来たのは、今から50年ぐらい前の事です。もっともお店はかつ吉ではなくて、当時二子玉川にあった菩提樹だったんですが。南とめさんという、この方は「ネガの神様」と呼ばれた方なんですが、その方としょっちゅう行ってました。

置いてあったパンフレットにびっくり

 

高倉さん:食事がおいしかったことはもちろんなんですが、ある時、レジの横に『あんばい』というタイトルのパンフレットが置いてあったんです。料理の味付けや加減のことを言う「塩梅(あんばい)」ですね。
それで、僕はこういう職業ですから、そういうのはすぐに読むんですが、この内容に、すごくびっくりしてしまったんです。

東洋人が料理に対して重ねて来た創意工夫だとか、料理と世の中との関わり合いなんかについて、味のある独特の文章で書かれていて、読み物として、もうとにかくおもしろかった。

それですぐに、「これ書いたのどなたですか?」ってお聞きしたら、当時のかつ吉・菩提樹の店主、創業者の吉田吉之助さんだったんです。それから長く、親しくお付き合いさせていただくようになりました。

吉之助さんの方も、特に南とめさんのことを大好きになりまして(笑)。それからも、何度も連れ立って通わせてもらいました。その頃から今まで、もうずっとですね。渋谷のかつ吉へは、平成元年の開店当初から来させてもらっています。

とにかくそれ以来、お仕事をご一緒する方から、プライベートまで、僕の周りの方たちと一緒に、もう数えきれないくらい何度も来ています。

 

世界最高の映画

高倉さん:僕が映画界に入ろうと思ったのは、『天井桟敷(てんじょうさじき)の人々』という映画がきっかけです。

『天井桟敷(てんじょうさじき)の人々』

『天井桟敷(てんじょうさじき)の人々』

第二次世界大戦中、パリがドイツに占領されてる時に、マルセル・カルネという有名な監督が撮った映画で、これは何十年間、世界で「最高の映画」と言われ続けた映画です。

ドイツの支配下で、みんなが虐げられてるわけでしょ。その中でマルセル・カルネが、「俺が映画を作るよ」とパリ中に呼びかけて、パリの俳優さん、パリの市民も全部そこに集まって、みんなが参加して作った作品です。

あるピエロが主人公のラブストーリーで、悲恋なんですが、その映画以来、パントマイムは笑いだけでなく、悲しみまで表現できるようになったっていう、3時間20分ぐらいの、本当に感動的な映画なんです。

ところで、この映画の原題は、「パラダイスの子供たち( Les enfants du Paradis )」、パラダイスで遊ぶ子供たちです。

 

パラダイスで遊ぶ子供たち

 

高倉さん:つまり、マルセル・カルネは、「パリ中の人で集まって、みんなで子供になってここで遊んで、この映画を作っちゃおう」と呼びかけたんですね。それでそういう世紀の名作が、映画としてできるわけです。

僕はこの映画を見て映画界に入ったんですけど、そのせいもあってか、僕もプロデューサーになって映画の企画を色々と立てていく中で、ある時、自分の「パラダイス」を作りたくなったんです。

そこに人がみんな集まって来て、楽しく遊ぶように、本当に作りたい映画を作れるような。
そして僕はその「パラダイス」を、ここ、かつ吉にさせてもらったんです。

 

楽しくて仕方なかった

高倉さん:ドラマは表側の俳優さん、裏方のプロデューサー、脚本家、監督、スタッフなど、大勢の人たちで作ります。もう何十年間、このかつ吉を「パラダイス」にして、そいういう人たちとドラマ作りをして来ました。

僕の7本もの企画を名作として執筆してくださった山田太一さんは、内々のお祝いのような時はかつ吉に来ますが、仕事の話となるとお酒は全く飲みません。皆さん色々な個性の持ち主が多いです。

ある時、平日5時からの早い時間帯に3時間の予約を入れて、あるドラマの企画会議の続きをかつ吉でやらせてもらったことがありました。プロデューサー、監督、脚本家で、僕が提出した企画書の検討です。

お酒と料理を出してもらうのを少し遅らせてもらって(店長さんをはじめ、従業員の方々に、本当に感謝です)、つまりお茶だけで、みんな夢中で話をしました。
ついに意見がまとまり、そこでゴングみたいに鈴を鳴らして(笑)、そこからはお酒とうまい料理を、食べきれないくらい目いっぱい持ってきてもらいました。

例えばそんなふうに、「企画」とか「ドラマ作り」って、本当に楽しいモノなんです。
みんな、楽しくて楽しくて仕方なかった。

 

ここに来るのが楽しい

高倉さん:それで、ここはおいしいでしょう? だから、みんなも余計に楽しいし。

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そういう会話を、ここに来る人たちみんながやってたらいいんじゃないかなと思うんですね。かつ吉というお店は、誰もが、そういう会話をできる場所なんじゃないかって。

僕の高校の同級生が、月に1回ずつ同窓会を続けていて、それがもう370何回目なんですが(すごいでしょう?笑)、途中から毎回かつ吉でやるようになって。それで、彼らは集合が6時なのに、いつも5時半に来ちゃうんですよ(笑)。ここに来るのが楽しいんですね。

それで彼らがいつも聞くのは、このお店は夜になると全部満席ですから、「高倉、どうしてここ、こんなにいつも混んでるの?」です(笑)。

その人に会うことがもっと楽しみになる

― そんなお店で約束すれば、人に会うのがもっと楽しみになりますね。

高倉さん:本当にそうですね。僕はドラマの仕事でもう60年ぐらいやって来ていますから、いつも考えるのが「相手がおもしろがっているかどうか?」ってことです。
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その「相手が感じている面白さを、どれだけ広げられるか?」というのが、ドラマづくりの中では、一番大事なことなんです。観てくださるお客さんがいるわけですから。

その中で、「テーマって何だ?」って話に必ずなるんです。その自分が一番作りたい、その元にあるものを、頭から出しちゃったらバカっていうんですよね(笑)。
それを一番最後に出して、どう感動させるか?・・・と考えていく。
おもしろいんですよ、これが!

それを表現するのに、ラブストーリーでいくか、ミステリーでいくか・・・、色々なやり方があるわけでしょう? 無限の答えがある中で、いろんな方法を駆使して、ドラマを組み立てていく・・・って、こんなに楽しい作業ってのは無いんですよ!

一番描きたいテーマを、最後に爆発させればいいわけでしょう? それを「たくらみ」って言うんです。企画の「企」ですね。

それで、ここにいる人たち、みんな夢中でしゃべってますよね。おいしく食べながら。

それはきっとそういう形のこと、僕たちにとってのドラマの企(たくら)みみたいなことを、きっとみんながやってるんだと思うんです。だから満員になるんです。

うまいものだけ食べさしてたって、そうはならないんですよ(笑)。

 

料理のおいしさ以外に食事に大切な事

― 料理のおいしさ以外に食事に大切な事って、どんなことですか?

高倉さん:「楽しかったなぁ」っていうのを残さないといけないと思うんです。
「今日の食事は本当に良かったなぁ」って。

その決め手になるのは、やっぱり「そこでどんな会話ができたか」だと思います。

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僕らなんかの場合だと、俳優さんからスタッフまで、関わる色々な人たちとかつ吉に集まって、「これうまいよなぁ」なんて言いながら、みんなで楽しく過ごす。それがまた、楽しい会話なんですよ。

「そんなことって、あるよなぁ」なんて言いながら。そんな風に、まず作り手みんなが楽しんでないと、モノはできないんですね。

 

料理やお酒がおいしいだけではダメ

高倉さん:食事っていうのは、やっぱり、そういう会話をしながらの食事だと思うんですね。

料理やお酒がおいしいだけではダメで、その場所が居心地が良くて、おもしろい場所じゃないといけないと思うんです。その意味では、ここかつ吉は知れば知るほどおもしろい、人にしゃべりたくなるようなことがいっぱいあるお店なんです。

 

食事を楽しくする秘訣

― 渋谷店で配布されている『店主の能書き』は、そんなお話をまとめたものなんですね?

高倉さん:そうです。現かつ吉・菩提樹店主の吉田次郎さんとも、もう何十年も前から親しくさせていただいてます。

『店主の能書き』

『店主の能書き』

この『店主の能書き』というのは、次郎さんがどんなふうにお店をイメージして、どんなことを考えながら一つ一つお店造りをして来たかを、おもしろいエピソードばかり集めて、僕が編集させてもらって冊子にしたものです。

渋谷店名物の灯籠の話から始まって、美味しいとんかつとは、水道橋店に通われていた三島由紀夫さんとステーキのエピソード、全店に合計で何千個と飾ってある、江戸時代の蕎麦猪口のお話。そしてラストの、木が大好きな次郎さんが一個一個手作りした箸置きにまつわる、ある親子との微笑ましいエピソード・・・。

こんなお話の数々が、渋谷からの帰りの電車で、15分で全部読めてしまうようにまとめてあるんです。

 

誰かにしゃべらずにはいられなくなる

高倉さん:それで、これを読んだ人は、ここで得た知識を、誰かに説明したくなる。次に誰かと来た時に「これはね・・・」なんてしゃべりたくなる。これがまた、いい気持ちなんですね(笑)。

例えば、「数十年前の三島由紀夫さんとのある日のやり取りから、新しい味付けのステーキが生まれて、それが今でもずっと続いている」・・・なんて知ったら、ちょっと頼んでみたくなりますよね?
それで、誰かと一緒に行った時には、「これは三島由紀夫がね・・・」って話になるじゃないですか(笑)。

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お店に置いてある書や骨董なんかも、語り出したらキリがないくらい、歴史があって面白いモノばかりです。

そういう一つの伝説っていうのが、楽しい会話をしながら食事するのに、どんなに大きいことか。
そういう知識を持って誰かと会話する楽しさっていうのもあると思うんです。

この『店主の能書き』は渋谷店のレジのところにいつも置いてありますから、興味を持ってくれた方には、ぜひ一度、手に取ってみてほしいですね。

― 今日は楽しいお話を、ありがとうございました。

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